第8話 エルヴィス・サウンドの誕生

レコーディングの合間にみんなが休憩していた時エルヴィスが、本来はブルース・スタンダード・ナンバーの「ザッツ・オーライ・ママ」をアップ・ビートで歌い始めた。ふざけて歌ったもの以外に何もなかった。エルヴィスは、アコースティック・ギターを手で叩きながらスタジオ中を踊りながら歌った。それに乗ってきたムーアとブラックも加わり、3人はスタジオ中を激しいロックのリズムで揺り動かし始めた。それを聴いていたフィリップスが、歌の途中で調整室から飛んで出てきた。

「いったいこれは何事だ」と叫んだ。

「わからないと」彼らは返答するだけだった。

「さあ、早く見つけだせ!これだ!これを失くすなよ。もう一度、それを繰り返すんだ。

テープを回すぞ」。サム・フィリップスは、この歌に何か新しいものがあると悟った。それは、彼が長い間探し求めていたカントリーとブルースそして白人と黒人をミックスさせたサウンドだった。ついにフィリップスは「黒人のサウンドで黒人のフィーリングを持った白人の男」を見つけたのだ。エルヴィスの才能の花が芽を出し始めた時でもあった。これまで数ヶ月以上にわたって、フィリップス、プレスリー、ムーアそしてブラックの4人は、ニューサウンドを見つけだしそれを完璧にするためにスタジオで何日も何時間も費やして来た。



フィリップスは、エルヴィスの初期のサウンド開発にスコッティー・ムーアとビル・ブラックによる演奏が多大な貢献をしたことを認めている。スコッティーのギブソン・ハローボディー・エレキ・ギターから流れるような華麗な演奏とビルの大胆で冒険的なベースのスピード感溢れる演奏なしには、このエルヴィス・サウンドは生まれなかった。結果的には、エルヴィス自身がこのニュー・ミュージック・スタイルに最も貢献していることは間違いない事実である。それは、古いブルースの歌「ザッツ・オーライ・ママ」を新しいサウンドとして引き出したエルヴィスの声であり、紛れもなくエルヴィスのエネルギーであった。